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特定教授 松本繁巳先生インタビュー 第 1 回(2回シリーズ)


1つのデータを最適に収集し循環・活用させる  ~がん領域におけるデータ統合を目指すCyberOncology事業の推進


『1つのデータは雨の一滴の如く、小さな川から大河に集まり海となり雲となり、私たちの「いのち」を支える。そして1つのデータを最適に収集し循環・活用させることで「いのち」を支える事が出来る』。松本繁巳氏が率いる京都大学大学院医学研究科リアルワールドデータ研究開発講座HPの巻頭言である。

 同講座の設立目的を「がん診療に関わるリアルワールドデータの利活用を推進し、より安全で効率的な医療を提供するとともにわが国の医療産業の活性化に寄与する」とする松本氏に、RWD(リアルワールドデータ)利活用の現状、そしてその課題解決のために採用し推進しているCyberOncology(電子カルテへの入力を支援するシステム)プロジェクトについて聞いた。

 第1回は、「リアルワールドデータ利活用のサスティナブルな体制とは」、「患者情報の収集方法と共通の過不足のないデータを入れるために」、そして「CyberOncologyとの出会いとその発展」である。

(聞き手:21世紀メディカル研究所 主席研究員・阪田英也 構成:同 研究員・柏木 健)


 

リアルワールドデータ利活用のサスティナブルな体制を構築

ーー松本先生は現在、京都大学大学院医学研究科リアルワールドデータ研究開発講座の特定教授を務められています。この講座の意義、そして目標についてお聞かせください松本:リアルワールドデータ研究開発講座は、新しい産学共同講座として2020年4月、NTT、キヤノンメディカルシステムズ、H.U.グループホールディングスの支援を受けてスタートしました。  電子カルテが普及したわが国でも、各施設の電子カルテから質の高いデータを収集出来るプラットフォームは未だ存在しません。一方、スマートフォンやウェアラブルデバイスの進歩は目覚ましく、患者個人のIT・健康リテラシーは年々向上しており、患者を中心としたリアルワールドデータプラットフォームの構築が現実化してきています。  リアルワールドデータ研究開発講座のビジョンは、「がん診療に関わるリアルワールドデータの利活用を推進し、社会に対してより安全で効率的な医療を提供するとともに、わが国の医療産業の活性化に寄与する」ことです。1人1人の患者さんはもちろん社会全体のために、リアルワールドデータを利活用出来るサスティナブルな体制を構築することを目標としています。


ーー電子カルテの接続、統合はいわば永遠の課題です。いまから30年前の90年代に患者データを収集して分析するにはどのような方法を取られていたのですか。


松本:90年代後半は、国立がん研究センター東病院で消化器内科レジンデントとして研修していました。この時代はオーダリングはありましたが、患者情報の記載は紙カルテでした。ですから患者データを横断的に収集して一つの疾患を調べようとすると、100〜200のカルテを調べないといけません。土日などで夜な夜な紙カルテをカルテ閲覧室の床に並べ、それを自分のコンピュータに打ち込んでいくといったような作業をしなくてはなりませんでした。

そして困ったことに、カルテの記載も皆バラバラです。必要な事を書いていない先生もいる。しかし検査データなどは残っている。バラバラですが、一つの疾患を調べようとするためには必要なものは残ってはいるので、そこにシートを挟み込んでカルテに入れたり、ハンコをつくったりして欠落している患者情報を当該の先生に追記してもらうことを実行しました。正しい患者情報を集積するためには入力の段階で制御しなければならないという発想をその頃に持った記憶があります。


患者情報の収集方法に疑問。共通の過不足のないデータを入れるために

ーーそして2000年に入っても患者情報の収集方法にはあまり変化はありませんでした。松本先生が疑問に思われ、これを何とか改良しようと思われた転機とは。 松本:2003年に京都大学医学部附属病院(以降:京大病院)に日本で初めて外来化学療法を推進し研究する探索臨床腫瘍学講座が出来ました。それまで抗がん剤投与は入院が原則でしたが、この頃から効率的にかつ安全に抗がん剤投与を外来で行なえるようになりました。この講座に消化器がん、血液がん、肺がん、乳腺がんの専門医4人とがん化学療法専門看護師・がん専門薬剤師が集まり、チーム医療による外来化学療法体制を構築しました。私は消化器がんをメインに担当していましたが、外来化学療法