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新型コロナウイルスのファクトフルネス



 

新型コロナウイルスのファクトフルネス」

(社会保険旬報 2021年3/1、3/11号掲載)

​ 国際医療福祉大学 教授 高橋 泰 氏 


今、大切なこと  今一番大切なことは、必要以上にコロナを恐れている国民に対し、年齢階級別死亡者数などのファクトデータをわかりやすい形で広く知ってもらい、恐怖を和らげることだろう。


 「0-29歳の場合、昨年1668万人に一人しか、新型コロナで亡くなっていない。これは同年代の人が、交通事故で亡くなる1/1000以下の確率である。」という事実を知れば、コロナが怖くて登校拒否をしている生徒が学校に行けるようになるだろう。「30-59歳の場合でも、昨年コロナで亡くなった人は35万人に一人であり、同世代の人が交通事故で亡くなる可能性の1/60に相当する」ということを知れば、安心して仕事を行なえるようになる。また最もリスクが高い「80歳以上でも、透析や重度糖尿病を患っていなに人は、昨年2万人に一人も亡くなっておらず、同世代の癌による死亡の1/80に相当する。」という事実に基づいた認識をするようになれば、多くの元気高齢者が家から外に出てくるだろう。人々の恐怖が和らいだら、基本的にコロナ以前の生活に戻し、一般人の感染の扱いを2類相当から5類相当にするのが良いだろう。


同じくらい大切な事

 昨年の夏頃から①要介護、特に寝たきりの高齢者、②透析患者、③重度の糖尿病患者など新型コロナに感染すると非常に高い確率で死亡するハイリスク・グループといえる一群があることが明らかになってきた。上記の一般の人と異なりこの人たちにとって新型コロナウイルスは危険なウイルスであり、高齢者施設内の重度介護者が感染すると世界でも類をみない6%から20%程度という高い比率で死亡する。このハイリスク・グループに属する人を認定し、この人たちを徹底して守る体制を構築することが、同じくらい大切である。

 このハイリスク・グループに属する人は、高齢者施設に130万人、施設以外に200万人程度いると推計されるが、施設外のハイリスク・グループに人は、これまで放置に近い状態にあった。このグループに属するほとんど人はかかりつけ医が定期的に診察を行っているので、かかりつけ医がハイリスクの人を認定し、登録を行い、認定された人は当面2類相当の対応を維持する。本人または家族が希望すれば、スマホアプリや電話による1日1回以上の経過観察や緊急時の連絡の確保などの対策を提供し、様態の変化の早期発見・早期搬送を可能にする体制を整える。このような体制を用意しておけば、社会が開かれ新型コロナが再度社会に蔓延しても、重症者や死亡者の増加を抑えられる可能性が高い。

高齢者施設のリスクが高いにも関わらず、日本の死亡者数は少ない

 先に述べたように透析や重度糖尿病などを含めた日本のハイリスク・グループは、種々のデータから330万人程度と推計される。ということは、日本の総人口1億2500万人からハイリスクグループの330万人を引いた1億2170万人は、世界でトップクラスのローリクグループになる。以上をまとめると「日本には、世界で最もハイリスクのグループと世界でトップクラスのローリスクグループが同居している」ということになる。

 日々、重症・死亡するハイリスクの患者さんの治療に明け暮れる医療関係者が「新型コロナは危険なウイルス」と考え発言を行うのは当然の成生(なりいき)である一方、新型コロナによる重症・死亡者が周辺に一人もいないローリスクグループの人達が、最近コロナを怖い病気と思わなくなってきているのも当然の成生である。そしてこのことが、日本社会の新型コロナ対策に関する対立を生み出している原因であるという結論にたどり着いた。

今回、7段階モデルを改定したきっかけ

 それなら分けて現状分析すれば、より日本の実情がわかり、適切な対策が取れるようになるのではないかと考え、今回の7段階モデルのver3への改定を行なった。7段階モデルは、新型コロナの全体像を俯瞰的に把握することを目的に開発してきたモデルであり、2020年7月にver1を、10月に内容を一部改訂したver2を公表してきた。今回7段階モデルver2を、より新型コロナモデルの実態に近づけるため、これまで示したファクトやいくつかの仮定のもと、新型コロナ7段階モデルver3を作製した。

昨年6月に行った年末死亡者数3800人の予測と7段階モデルの関係

 昨年7月19日のフジテレビMr.サンデーに出演し、「日本の新型コロナの死亡者は、最大3800人」と述べた。表1は、3800人発言のベースとなった筆者らが7段階モデルver1をもとに6月に行った死亡者数推計値と2020年にコロナで亡くなった年齢階級別の人数(2021年1月6日公表値)の比較表である。今年に入り死亡者数が7000人を超えたが、とりあえず昨年末の死亡者数との比較を示す。この直前に他の専門家が行った「42万人」や「10万人」という死亡者予測数と比較すると、筆者らの3475人±10%で、2020年内の死亡者数3128人〰3823人という推計から導き出した、「最大3800人程度」という予測は、かなり精度の高い予測値であったことは間違いない。


(表1:7段階モデルver1をもとに6月に行った死亡者数推計と実測値の比較)

 この予測の基本は、暴露者数が増えれば、それに比例して(表2)に示した数字に従い、重症者や死亡者数が増えるというものである。昨年6月に、5月の国全体の暴露率を30%とし、その後10月を50%、年末を75%と仮定し、暴露人口を計算し、その人口に表2に示す各状態の発生率を掛け合わせ、無症状・軽症、中等症、重症、死亡の人数を予測した。新型コロナは、年齢階級ごとに表2に示したような確率で症状が進行する性格を持ったウイルスであり、表の数字がおおむね正しかったので、予測がほぼ的中したと考えている。

7段階モデルver3の紹介

 表2に、7段階モデルver3基本データ表を示す。縦方向は、上方のステージ0(暴露無し)からステージ6(死亡)まで7段階モデルのステージを表しす。


(表4:新型コロナ7段階モデルver3のステージ別基本データ表)

 この表の主要なメッセージは、「新型コロナは、ローリスク・グループの特に若い世代にとってはほとんど風邪と変わらないウイルスであるが、ハイリスク・グループにとって致死的なウイルスであり、ローリスク・グループでも年齢が上がると、リスクが上がる」であり、表2は、このメッセージをファクトや仮説をもとにした推計値を用いて表現している。

 表の作成や読み方に関わる詳しい内容は、社会保険旬報3月1日号、3月11日号を参照いただきたい。以下に示すアドレスからダウンロードすることができる。また、7段階モデルを知るには、ユーチューブで公開している「感染7段階モデルで読み解く新型コロナの感染状況 ~ 98%は風邪!? 血管が脆弱ならハイリスク!!」の参照を勧める。

 社会保険旬報のリンク先

 ビデオのリンク先 https://www.youtube.com/watch?v=gd79ljomJoc

7段階モデルから予測される今後の状況

 表2から導き出される大切な結論が一つが、図1の左に示すように新型コロナウイルスに罹患したローリスク・グループの人が排出する新型コロナウイルスは、その人にとって風邪相当のウイルスであるが、その同じウイルスがハイリスク・グループの人にとって致死的ウイルスに変わり得るということである。逆に図1の右に示すように、人工呼吸器を使用中の重症患者から排出される新型コロナウイルスは、その患者にとっては致死的なウイルスと言えるが、ローリスクの人から見れば風邪相当のウイルスであるということである。


(図1:ハイリスク・グループとローリスク・グループにとっての新型コロナウイルス)

 昨年春に7段階モデルを開発した時の基本とした考えは、新型コロナウイルスは、日本の風邪の20%以上を引き起こすコロナウイルス(以後、風邪コロナウイルス)のグループの一員なので、基本的に風邪コロナウイルスと似た行動形態をとり、人間側も風邪をひいた時と同様の生体反応を示すというものである。風邪コロナウイルスは、はやり始めるとわずか数週間で全国に蔓延し、数千万人規模で暴露することがある。新型コロナウイルスも第1波、第2波、第3波とわずか数週間で全国に拡大したことから、風邪コロナウイルスと同様の非常に高い暴露力、感染拡大の能力を有していることは間違いないと思われる。

  人の移動が増えるゴールデン・ウィークやお盆の時期に感染者(PCR陽性者)が再度増加する可能性は高く、次回の冬の時期に再度感染者の急増は確実と考える。そこで感染はするが重症化・死亡に関してはローリクの人に対して現在行われているPCR陽性者隔離政策を今後も続けるならば、これまでと同じように医療現場は混乱し、緊急事態宣言につながる可能性が高いと思われる。また同時に、これまで新型コロナウイルスの暴露を免れていたハイリスク・グループの人を守る仕組みを導入しなければ、ハイリスクグループの人の新たな暴露・感染も当分の間発生し、その暴露者数に比例した高齢者を中心とする重症・死亡も、しばらく続くと思われる。

対策をどうすべきか

 最初に述べたように、今後行うべき対策の基本は、ファクトに従った年齢階級別の死亡者数などの事実を国民に知らせ安心させることと、ハイリスクグループの対策とローリスクの対策を分けて考え、ハイリスクグループを守ることに資源を集中することである。また、ローリスク・グループの中のハイリスク・グループと高頻度で接する人たちを更に分けて対策を考える必要があり、また新型コロナを怖い病気であると考えているローリスクの人に対する対策も必要である。

 特に早急な対策を要するハイリスク・グループに対しては、まず高齢者施設の入所者に対して、厳重な隔離体制の維持など、当面現状の対策を続行することが基本になる。施設外のハイリスク・グループに属する人は、かかりつけ医の定期的な診療を受けている可能性が極めて高い。よってハイリスク高齢者を守る為に必要なハイリスク・グループの認定作業は、まず国がハイリスクの基準を作成する。次に、本人や家族が新型コロナへの感染の危険を感じ、ハイリスクの認定を希望する場合、かかりつけ医にハイリスクに該当する人を認定し、保健所に登録するのが最も妥当な方法だと思われる。ハイリスクと認定された人は当面2類相当の対応を維持し、本人または家族が希望すれば、スマホアプリや電話による1日1回以上の経過観察や緊急時の連絡の確保などの対策を提供し、様態の変化の早期発見・早期搬送を可能にする体制を整える。これまで施設外の高齢者は、かかりつけ医による診療と診療の合間は基本フォローされていなかったので、これらの体制が重症者・死亡者の減少に有効と思われる。

(了)







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